5月15日のブログでは、世界経済フォーラム(WEF)が発表した「ジェンダーギャップ指数2021」において、日本が世界156カ国中120位だったことを受け、企業における女性活躍の実態についての考察をご紹介しました。

今回は、ジェンダーギャップ指数で日本よりも順位が良い他国の事例を通じて、女性活躍の有り方を探っていくシリーズの1回目として、筆者の母国であるチリ(ジェンダーギャップ指数2021において70位)の事例を有識者に行ったインタビューを通じてご紹介します。

インタビューさせていただいたのは、チリでコーポレートガバナンス専門の弁護士としてご活躍されると同時に、女性のエンパワーメントに関する活動にも取り組んでいらっしゃるサラ ウエルタ・エストラダさんです。

サラ ウエルタ・エストラダ

チリ在住
コーポレートガバナンス弁護士
民間企業にて取締役
「Promociona Chile(プロモシオナ・チリ)」組織内委員会リーダー

サラさんは、女性のエンパワーメントに関する活動をされていると伺いました。具体的にはどのような活動をしていらっしゃるのかお聞かせください。

はい。私は チリの経済省、女性省および労働組合が主導している「Promociona Chile(プロモシオナ・チリ)」という取り組みにおいて、組織内委員会のリーダーの役割を担っています。この取り組みは、上級管理職における女性の数を増やすためのもので、官・民協働で行っているものです。

プロモシオナ・チリは、具体的にはどのような活動をしているのですか?

プロモシオナ・チリが主に行っているのは、大学院の修士過程のようなアカデミックなトレーニングプログラムの提供です。このプログラムは、アメリカのハーバード大学で開発された適応型リーダーシップ理論に基づいたもので、企業の管理職の女性を対象に、彼女たちが将来、役員になること目的に展開しています。
また、取り組みを支援してくださっている大企業の幹部から受けるコーチングや、クロスメンタリングに加えて、既に様々な企業で役員に昇進した120名を超える先輩女性たちとのネットワークの場も提供しています。

た私は、民間企業で取締役も務めているので、私自身が「経営における女性」の一人でもあります。私は自分自身をフェミニストであると表明しているのですが、フェミニズムは、男女の平等な権利と機会を探求することであり、女性が男性よりも優れているというわけではありません。男性と女性は生物学的には異なっていますが、仕事における権利と機会、家事や育児の分担においては平等でなければならないと考えています。

ジェンダー指数2021において、チリは70位でした。日本の120位よりも良い結果でしたが、サラさんはどのような点がこの差に繋がっていると思われますか?

ジェンダー指数2021の総合的な順位で、チリが日本よりも上位になっている大きな理由は、政治における女性の活躍があります。チリでは2006 年から 2010 年まで女性が大統領を務めましたし、議会および国営企業の取締役会への女性関与に関するクオータ制があります。

クオータ制とは・・・

男女の性差別による弊害を解消していくために、議員や会社役員などの女性の割合を、あらかじめ法律で一定数に定めて積極的に起用することで格差を是正し、政策決定の場の男女の比率に偏りが無いようにする仕組み

クオータ制があることで、チリの国営企業では、役員における女性の割合は40%にのぼります。一方、民間企業についてはどうかと言うと、ジェンダー指数2021の結果(経済分野:チリ113位、日本117位)を見ても明らかなように日本と大きな差はなく、役員の女性割合はたったの7%です。この数字の違いを見て分かるように、女性活躍推進のイニシアチブを各企業に委ねたままでは、状況が改善されるのに長い時間を要することは明白です。
一般的にリーダーシップと言うと「強さ」「傲慢」「権威主義」のように男性的な要素で語られることが多いと思いますが、これは産業時代のモデルです。産業時代が終わりを告げたいま、企業においてはイノベーションが求められており、そこで必要なリーダーシップ要素も「対話」や「他者に耳を傾ける」のように、より女性的なものが増えてきています。

このような時代の変化を受け、私は、いまこそ民間企業においてもクオータ制を導入すべき時だと考えています。昨年、チリの隣国アルゼンチンでは、株式市場で取引されている企業の取締役会に対してクオータ制を制定しました。これにより、現在、アルゼンチンでは取締役会に占める女性の割合は40%以上になっているかと思います。企業文化や社会が自主的に変わることを待っていても、変化はとても遅く、その間にも有能な女性、価値と才能ある世代が失われてしまいます。

チリの労働市場において、現在、女性の立場はどのような状況ですか?

日本や他の国においても同様だと思いますが、チリでも、新型コロナウイルス流行の労働市場への影響は非常に大きなものがあります。
昨年の春以降、チリでもテレワークが一気に普及しましたが、同時に、学校が閉鎖されて子供たちが家にいる状態が長く続いていて、子育て家庭は、テレワークと子供の世話のバランスを取ることに苦労しています。両親の手助け無しに家で行われるオンライン授業をスムーズに受け、勉強することができる子供は少ないのが実態です。結果的に、チリでは多くの女性が仕事を辞めることになりました。興味深いことに、子育て家庭に対して行われた調査によると、男性の70%は、この間子供たちの世話を全くしなかったと回答しています。ここにも、チリで男女平等がまだ進んでいない事が浮き彫りになっています。

新型コロナウイルスの流行以前はどうでしたか?

新型コロナウイルスの流行以前は、チリでは女性の労働関与率は向上しつつあり、管理職や役員に登用される女性の数を増やすなど、社会や企業の意識は高まっていました。しかしながら、管理職や役員における女性の割合は依然として非常に低いものでした。それを示す例をひとつ上げると、チリにある約200社の株式上場企業の取締役会において、女性の割合は8%未満に止まっています。チリでは、 リーダー、管理職、取締役会のメンバーとして活躍する女性は本当に少ないのが現状なのです。

女性の活躍推進を考える時に、女性ではなく男性が変わらなければ始まらないという意見があります。チリではどうでしょうか?

それについて言うと、チリの男性はまだまだ十分に取り組んでいないと思います。
私は、チリのリーダーシップポジションにおける男女平等の解決策は、男性が自発的に身を引くことだと思っています。チリには、過去200年に渡る家父長制があり、長きにわたり男性が様々な意思決定と支配を行ってきました。今こそ男性が「多様性によって大きな価値を創り出すことができるのだ。広い視野で意思決定を行おう!」と言うべき時が来たのです。もう男性だけの時代ではないということを理解し、女性をリーダーシップポジションの中に招き入れることができるのは男性だけなのです。

数年前にカナダでとても興味深いケースがありました。いくつもの有名企業で取締役を歴任してきた男性の役員が、「これからは女性が取締役のポジションに就くべき時が来たため、自分は取締役を辞任する予定だ。男性が身を引かなければ、女性が役職に就くことができないのだから。」という声明を出しました。この例には、より良い社会、国や経済の成長を望む姿が見えますが、男性にとっては大切なもの「男性に与えられた権力」を失うことに見えるかもしれません。

男女平等のために、男性がイニシアチブを取るべきだとお話しましたが、カナダの取締役のようなケースが、自発的にどんどん起こっていく可能性は低いと思います。だからこそ私は、アルゼンチンが最近行ったように、チリでもクオータ制を導入する事を提唱しています。変化を恐れる人は多いと思いますが、時間が経過すればそれが当たり前になることを証明する例があります。女性が投票する権利です。女性の投票を認める法律が制定された時は、誰もが「女性が投票することがどうして可能なのか?」と懐疑的で、怖がってさえいました。しかし今では、女性が投票する権利を持っていることや、女性がしっかりとした知識や意見を持って投票を行うことができることを疑う人はいません。それと同じことなのです。

日本でも議会や企業の取締役会において、クオータ制を導入してはどうかという議論があると聞きました。導入は簡単な事ではないと思いますが、それぞれの国にあったやり方でジェンダーギャップを少なくしていく取り組みができるといいですね。

最後に、チリの経済活動市場(労働市場)における女性活躍推進のために、いまサラさんが最も重要視していらっしゃることについて教えてください。

女性の活躍推進について、私たちは、新型コロナウイルスの流行で失ったものを取り戻すために今まで以上の努力をしなければなりません。2年前の私の焦点は、女性の上級管理職への関与を増やすことでしたが、残念ながら新型コロナウイルス流行の影響で、状況は何十年も前まで戻ってしまいました。いまチリで私たちがすべきことは、両親(男女)が共同で子育てを行うことが当たり前の社会を作ることだと思っています。このためには、政府によってなされることだけでは不十分で、企業による努力が必要になります。一番に変わるべきは企業方針だと考えています。

サラさん、今日はありがとうございました。

終わりに・・・

チリでは、政治の領域においては女性活躍が非常に進んでいるものの、職場においては日本と同様に問題を抱えていることが分かりました。チリの国営企業と民間企業の取締役会における男女比の差(33%)は、政府による強力な一歩(クオータ制の制定)が、男女平等の進歩にどれほど大きな影響を与えうるかを示しています。

しかし、各企業もゲームチェンジャーとして行動する立場にあることを忘れてはいけません。サラさんがインタビュー内で言っていたように、仕事と育児に関して男性と女性の従業員に同じ権利と機会を提供すべく、強力なCSR戦略を通じて取り組んでいくことができれば、ジェンダーギャップを埋めることに貢献できるでしょう。この点は、日本の企業にも同様の努力が求められると思います。

次回は、ジェンダーギャップ指数で16位のフランスの事例から学びます。パリの日仏経済交流委員会の代表を務めておられる日本人女性の目線から、フランスの働く女性の状況を見ていきます。ご期待ください!

ライター

ハビエラ アソカル・エストラダ
株式会社イマクリエ
広報・マーケティング担当

チリ出身、東京在住。

日本語・スペイン語・英語・フランス語・ロシア語を操るマルチリンガル

2020年 ソルボンヌ大学(パリ)にて国際関係・海外行動学修士課程修了
大学院在学中にイマクリエのインターンシッププログラムに参加し、卒業後、2020年11月に正社員として入社。現在は広報・マーケティング業務を担当